every new beginning comes from some other beginning's end だなぁ

【ネタバレ】HBO「CHERNOBYL」でよく分からなかったところを復習する

アメリカのテレビ放送局「HBO」が作成したドラマシリーズは

  • From the earth to the moon
  • Band of brothers
  • The pacific

と見てきたが、そのHBOが2019年にチェルノブイリ原子力発電所事故を題材に作成した新たなドラマシリーズが「CHERNOBYL」である。

チェルノブイリ原子力発電所で事故があった、という事実はまぁ誰でも何となく知っているだろうが、このドラマを見たことで事故発生までの経緯やその原因、事故によるその後の影響を知る事が出来た。このドラマ、かなり心に響くものがある。

…しかし科学的な話が多くて劇中「??」となるところが多かったので、爆発までの経緯をブログでまとめておさらいしようと思う。自分の思考整理用。

爆発までの経緯を大まかに

大まかにざっと記すと

  1. 点検修理のため原子炉を停止するに伴いある実験を行う予定であった
  2. 実験のため原子炉の出力を下げたところ予想より下がって停止寸前になってしまった
  3. 急いで出力を上げたがなぜか全然上がらないがこのまま実験開始
  4. すると突然今度は予想を遥かに上回る速度で出力が上がっていった
  5. これはまずいと緊急停止ボタンを押すがその直後爆発

という流れ。なぜ緊急停止ボタンを押したのに爆発したのか、というところがドラマのキモ。

何の実験をしていたのか?

電源喪失時、炉心に冷却水を送るための非常用ディーゼル発電機は始動まで60秒かかるが、これでは不十分であるため、原子炉タービンの慣性回転を利用した場合、冷却水を送り込むための電力を賄えるか、という実験。丁度点検修理のため原子炉を停止する事になっていたので、この機に乗じて実験を行うことになっていたという。

しかしそもそもこの問題をクリアしてからじゃないと原発は稼働できない規則だったのだがそれを無視してこのチェルノブイリ原発4号炉は1983年12月から稼働していたらしい…

予期せぬ出力の低下 – 核毒「キセノン135」の蓄積

チェルノブイリ原発の原子炉はRBMK型原子炉と言われ、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉と言われる。

RBMK型は燃料にウラン235を用いた原子炉で、このウラン235は核分裂の際にキセノン135という物質を生成する(正確にはウラン235 > テルル135 > 半減期2分 > ヨウド135 > 半減期6.7時間 > キセノン135)。

このキセノン135は人類が知る中で最も中性子を吸収する物質なのだそうだ。

キセノン135は中性子を吸収すると消滅するので、原子炉の反応度がある一定より高い状態ではそのバランスを保つことが出来る。しかし逆に原子炉の反応度を下げるとキセノン135が増えることにより更に熱出力が下がってしまう。このことをキセノンオーバーライド現象という。キセノンオーバーライドが発生すると低出力状態においてはいくら出力を上げようとしても上がらず、逆に下がる一方になってしまう。

実験当日の原子炉は、通常時3200メガワットで運転されるが、この日は実験に備えて10時間前より半分の出力の1600メガワットで稼働していた。本来ならこの10時間前の段階で実験のため原子炉を停止する予定であったが、周辺の工場において電力が必要であるためしばらく1600メガワットで稼働せよ(劇中では月末だからどの工場もノルマ達成のために忙しく働いている、と言っている)との上層部からの指示により、4月25日23時10分までその出力を維持していた。

10時間もの間通常より低い出力で稼働していたことで、炉心にはキセノン135が蓄積された状態となった。上層部から原子炉停止の許可が出たのが4月25日23時10分。実験開始に伴い出力を700メガワットまで落とそうとするが、低出力時においてはキセノンオーバーライドにより不安定な状態となるため、操作せずともどんどん出力が下がっていく。このとき出力は最終的に0メガワット近くになったという。実験のためにと何とか出力を700メガワットまで戻そうと、運転員は制御棒(反応度を抑えるホウ素で出来た縦長の棒)をどんどん抜いていく。最終的にほぼ全ての制御棒を抜き、出力はなんとか200メガワットまで戻ったがそれ以上には上がらなかった。

実験開始

出力が予定より低いが実験が強行された。この理由は劇中によると副技師長のディアトロフ(超威圧的パワハラ上司)がこの仕事をさっさと終わらせたかったためだ。

この状態の原子炉でこの実験を行うとどうなるかおおまかに言うと、実験開始によって200メガワットという低出力状態におけるタービンの慣性回転による電力のみでポンプを作動させるので、炉心へ冷却水が通常通りの量、送ることが出来なくなることを意味する。

ディアトロフ以外の運転員は皆これは危険だ中止すべきだと言うが、ディアトロフはお構いなし。さっさと終わらせろこの役立たずどもが、という始末。

午前1時23分4秒。

突然の出力上昇

炉心にはキセノンオーバーライドで出力が下がったことによりさらにキセノンが蓄積。そのため全く出力をあげられる状態ではなかった。

だが原子炉は低いながらも200メガワットで稼働している。なので冷却水はどんどん蒸発して無くなっていく。しかし結局200メガワットの出力によるタービンの回転では冷却水を送るのには全く足りず、炉内に新しい水を送り込む余力は無かった。

水は中性子を吸収するので核反応を抑えるが、蒸気は逆に反応度を上げる(水が無くなるので)。今度は出力が上がりはじめる。水が無くなり反応度が上がるとキセノンも消滅してゆく。こうして200メガワットだった出力が1000…3000…6000…12000…と上がり続けた(たった40秒程の間で!)。

水はどんどん沸騰し蒸気となる。その圧力によって一つ350kgある圧力管の蓋が次々に跳ね上がる(第5話でのこのシーンはとても不気味でした…)。このとき原子炉の出力は33000メガワット以上であったと言われている(通常運転は3200メガワット)。

午前1時23分40秒。

爆発

運転班長のアキーモフは緊急停止ボタンを押した。このボタンをソ連では「AZ-5」ボタンと言う。AZ-5を押すと全制御棒が一斉に挿入され出力を抑えられる。

…はずであるが、さらに出力が上がり、ついに炉心上部の重さ1000トンある蓋が圧力により吹っ飛ぶ(第5話。このシーンもすごかった…)。と、同時に炉心内に酸素が送り込まれ、酸素と水素と黒鉛が化合し大爆発。4号炉建屋を吹き飛ばした。

午前1時23分45秒。

AZ-5を押してからほんの数秒のうちの出来事。

原因は

運転員の作業違反、ということもあるが、根本的に技術的な部分によるところが大きい。

チェルノブイリ原発は前述の通りRBMK型原子炉が使われている。結論から言うと、致命的な欠陥がこのソ連が開発したRBMK型原子炉にあったのだ。それはこのRBMK型の制御棒の仕組みにある。

RBMK型原子炉の制御棒の概略図:(参照)https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_02-07-04-11.html

制御棒とは中性子を吸収するホウ素でできており、核燃料の間に挿入することで核分裂を抑えるためのものであるが、このRBMK型の制御棒にはその先端(つまり炉心に一番最初に入る部分)に黒鉛が使われているのだ。中性子は通常の状態では速度が早すぎて核分裂を起こしづらいので、十分な出力を得るにはこの中性子を核分裂を起こしやすい速度に落としてやる必要がある。そのための仕組みとしてRBMK型ではその名前の通り黒鉛が使われている。つまり中性子は黒鉛を通ることで核分裂しやすくなる=出力を上げられる、ということになるのだ。

なぜその黒鉛が制御棒の先端に使われているのか、これは出力を積極的に上げて運転しようというソ連の方針によるもので、制御棒のスペースにも黒鉛を使うことで結果、コストダウンを図ったものと思われる。

ということから、制御棒を挿入する動作を行うと最初に炉心に挿入されるのは黒鉛ということになる。さらに制御棒管内の冷却水も挿入と同時に排出されるという仕組みであったため、反応度は一気に上昇、圧力管内の水が立ち待ちすごい勢いで蒸気になったことによる圧力の急上昇によりまず圧力管が爆発し壊れる。それにより制御棒が壊れた部分に引っかかり挿入できなくなる。しかし先端の黒鉛は炉内に留まるため反応度は止まらず上がり続ける。

これによりAZ-5を押した直後に爆発が起きたのである。AZ-5を押したことが事故の引き金になるなどということはその場にいた誰もが知らなかった。これはソ連政府がこの欠陥を隠しており、運転員達に知らせていなかったためだ。

ソ連は当初この事故を「原発技術者による操作ミス」で片付けようとしたようだが(1986年IAEA会議ソ連報告)、この事故の調査責任者であった科学者ヴァレリー・レガソフによる告発で(当初、政府からの圧力で嘘の証言をさせられたが、その後告発内容を収めたテープをマスコミに送り公表。その後、彼は自宅で遺体で発見された。自殺と言われているが果たして…)、全世界に白日の下に晒され、こうなるとソ連も対応をせざるを得なくなり、これにより国内に15基あった同RBMK型の欠陥が改修されるに至ったのである。

ということです

…と、事故発生までをおさらいしてみた。1話から5話まで一度見ただけでは何が何だかよく分からなかったので(登場人物も多いし)、ブログににまとめることで情報を整理出来て良かった。

チェルノブイリの事故は技術的な欠陥もそうだが、ソ連の秘密主義的な体制も影響している。

当時の書記長であるゴルバチョフが進めたペレストロイカにおいてグラスノスチ(言論や思想の自由化)は特に重要な政策であったが、この事故の際に連邦トップのゴルバチョフにさえも事故の情報が入ってこなかったことから、体制の硬直化による様々な社会問題を解決するため、この事故を契機に、よりグラスノスチが強化されていったという。

後にゴルバチョフは「ソビエト崩壊の本当の原因はチェルノブイリ原発事故にあったのかもしれない」と言った。

その通りでしょ。

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