北アルプス三日目、涸沢小屋を出発しザイテングラートを登って奥穂高岳を目指す。
ザイテングラートとは涸沢から奥穂高岳へ向かう際に通ることになる岩稜の尾根のことだ。
昨年度、9月に連続して死亡事故が発生したようだ。気を引き締めなければ…
涸沢小屋では六畳間に我々含めて男性が6人の相部屋であった。六畳間であるのでもちろん布団を敷けばそれぞれ重なるし、足を伸ばせば誰かの足に当たってしまう(大体が対面の人)。どこにも干渉しない上手い具合の角度を見つけて寝入った。
しかし部屋の中が暑い。とても暑い。この暑さで23:00PM頃起きて窓を開けた。遠慮気味に開けた窓の隙間からは穂高岳から吹き降ろされた冷風がそよそよと入り込む。すると寝床を離れていた隣のおじさんが戻ってきて、暑いから開けてしまおうと窓をガバッと全開にする。お陰で快眠にて朝を迎えることができた(同室の他の人は暑さのあまりテラスに涼みに出ていたらしい)
同室の二人組のおじさんは4時頃起床して出発していった。おそらく縦走のための早出だろう。
朝を迎え、窓全開おじさんは俺らより30分早めに小屋を出発して今日は穂高岳山荘に泊まるらしい。全く俺らと同じ行程である。
もう一人のおじさん、これが中々のお喋り好きでべらんめぇ口調が特徴的であった。息子と涸沢で合流して一緒に奥穂高に行くとのことで、息子は涸沢カールでテント泊をしているとのことだ。
『いい歳してテント泊なんて疲れることやってられっかよ!』
と、かなり年季の入ったヘルメットを被り小屋を出発していった。彼らは穂高岳山荘から重太郎新道を通り岳沢経由で上高地へ行くらしい。
俺らは今日は涸沢から穂高岳山荘への登り(行けたら奥穂高岳山頂)で1日を終える予定だ。なので朝は普段よりゆったりとしたものであった。
07:00AM 涸沢小屋出発
本日はご覧の通りの曇り空である。
涸沢小屋横の登山道より穂高岳山荘を目指すが、早々にガスの中に突入し風があり多少の雨も混じり昨日とは打って変わっての天気である。
キャプチャープロによりザックの左ショルダーベルトに取り付けたNEX-7をザックにしまい込み、ザックにレインカバーをかけた。
ちなみにキャプチャープロにカメラを装着したまま大キレットを通過したら、ガシガシ岩に当たって傷だらけになってしまいました…笑
ま、これはこれで味が出て良しとしているところではあります。それとレンズフィルタにも傷が付いてしまったので、もしフィルタが無かったらと思うと…オソロシー
それにしてもこのキャプチャープロ、やはり便利です。これでカメラが防水対応ならなお良いんだけどねー。
降っているのかそうじゃないのか、微妙な雨の中で結局レインウェアは着ないことに決めゴロゴロした岩の道を歩く。風によって膨らんだザックカバーが『エアバッグのようだ』とは狸パイセン氏の至言である。
ザイテングラートの取り口に到着。ガスが濃いのでどこを撮っても同じ風景…
ザイテンは確かに急登で、登りはまだ良いが下りは気をつけなければならないだろうと思った。鎖場もあるけど足場がしっかりしてるから登りに関しては何てことない。しかし俺は鎖場の通過で途中まで使っていたストックを何を思ったかザックのチェストストラップとウェストベルトに引っ掛けて挑んだところ、ストックが足やら鎖に引っかかってちょっと危なかった。余計なことはするもんじゃないなと反省した。
09:10AM 穂高岳山荘
今日の宿泊地の穂高岳山荘に到着。もう着いてしまった。
相変わらずのガスの中で展望は無し。ていうか山荘の全景すらよく見えない(笑)
山荘内にてしばし休憩。ストーブが焚かれていて暖かい。
10名程の登山客が先客として休憩場にいたが、その殆どがこの天候の中、奥穂高山頂に行くのか行かないのかを検討しているように見えた。
窓全開おじさんをザイテンの途中でパスしたがその際『強風で奥穂高に通じるハシゴで飛ばされそうになった』と彼が下山者から聞いた情報を教えてもらっていた。
確かに風は強い。しかし明日はもっと天候が悪くなる予報だし、明日は上高地15:00PM発のバスで新宿まで帰らなければならない。そのため明日の行程に余裕を持たせるためにも山頂を踏破するなら今日しかないと判断して、俺らは奥穂高岳山頂を目指すことにした。
山荘の受付に荷物をデポしても良いか確認してから、休憩所の隅に荷物をデポし最低限の荷物だけで再び外に出た。
山荘横から奥穂高岳山頂まではいきなりの険しい岩の登りである!ヘルメット必須!(ここからはサクサク進んだのとガスの中だったので大して写真は撮りませんでした)
09:32AM 穂高岳山荘出発
風は強いけど吹き飛ばされる程では無かった。浮石に気をつけて落石に注意しながら進んでー
10:10AM 奥穂高岳山頂
着いた!
日本で三番目に高い山、奥穂高岳を踏破したぜ!ヤッター
下山開始!
10:40AM 穂高岳山荘
帰ってきた。今日の予定、全て終了!笑
山荘にて宿泊の受付をしてお代を『クレジットカード』で支払った。この穂高岳山荘、山荘なのにクレジットカードが使えるのだ。すごい。
しかしなぜわざわざクレジットカードで支払ったか。実は私、まったく現金を持ち合わせていないという失態を犯してしまったのです。
すっかり現金問題のことを忘れていました。槍ヶ岳山荘宿泊分を支払った時点で私の財布はすっからかん…狸パイセンの財布に頼らざるしかなくなってしまったのです。涸沢小屋は狸パイセンに支払ってもらいましたが、そんな狸パイセンも新宿で待ち合わせ前に行っていたパチンコで幾分かすってしまったようで、三泊目を支払う余力が残っていたなかったのです。この穂高岳山荘はまさに最後の希望であったわけなのでありました。
もし現金を持ち合わせていたならば、再び涸沢に降りて涸沢ヒュッテか涸沢小屋に宿泊すれば、さらに明日の行程に余裕が生まれるはずだったのですが、まあ仕方ないですね。
ひとまず、昼飯にした。
またカレー(笑)美味しいなー。
その後
カレーを食べ終わって丁度、涸沢小屋で一緒だったべらんめぇおじさんを発見した。話を聞くと天気が悪すぎて岳沢には降りられないからそのままザイテンを下るとのことであった。確かにこの風ではなー。
そしていよいよすることが無くなってしまった…
ので、図書室で文学に励むことにした。山荘であるので山に関連する書物が一通り揃っているようである。
一つ手に取る。なるほど、この文献は登山における喜びや過酷さ、仲間と困難に立ち向かい打ち勝つことの素晴らしさを題材にしたものかー
ヤマノススメ。アニメ面白かったなぁ〜。しかし岳(ガク)もあってどちらを読むか迷ったが結局、岳を10巻まで読んで時刻は15:00PM付近となった。少し疲れたので部屋でしばし休憩した。
17:00PM 夕食
夕食である。
美味い!なんかもうここまでの食事全部美味い!味噌汁の味の濃さが身体に染み、そして何より熱いお茶(ほうじ茶)が『お茶ってこんなに美味しかったっけ?』というぐらい美味かった。
雨が降り出し、雷鳴を遠くに聞いた。風も山荘にやって来た頃より遥かに強まっている。テント場にテントを張っていた人がテン泊を諦めて山荘にやってきた。この風雨の中では仕方ないだろう。
部屋の窓ギリギリでスマホの電波を拾うことができたので明日の天候や雨雲の動向を注視、狸パイセンが昔ながらに持参していた携帯ラジオでNHKを受信し北アルプスの各山の天気予報を確認した。
風が雨と共に唸りを上げながら部屋の窓に叩きつけられ明日の行程に一抹の不安を感じながら21:00PM消灯した。
翌日
03:00AM 風の唸りで目を覚ます。これ今日下山できるのかなあと不安になる。
05:00AM 朝食。生卵があった。ご飯にかけて醤油に合わせた。こんなに美味い卵かけご飯があるかと感動した。
06:00AM 穂高岳山荘出発
明けてみると風は強いが昨夜程では無くなっていた。昨夜の夕食時に偶然にも隣の席になった窓全開おじさんに、またどこかでお会いしましょうと挨拶し山荘を出た。
昨日は登りで且つガスにより全く全景が掴めなかったが、ザイテングラートはやはり中々な傾斜である。
ザイテンに入ってからはすっかり風が無くなった。雲が滝雲となり勢いよく涸沢カールに流れ込む様を見てあの強風は稜線特有のものだったのかと思う。
07:15AM 涸沢小屋
1時間とちょっとで涸沢小屋まで下山。しばし休憩。
ザイテングラートの取り付きから涸沢小屋間で猿を見た。たまに熊もいるらしい…(怖)しきりにキーキー鳴いていて何を目的としているのか分からずちょっと怖い。
07:40AM 涸沢小屋出発
ここからは危険な箇所も殆どなく上高地向けてただひたすら歩くのみ!涸沢ヒュッテを通過して一先ず横尾を目指す。
09:35AM 横尾
槍沢からの登山道との合流地点、横尾に到着。狸パイセンにポカリスウェットを買ってもらった。激ウマ!
涸沢から横尾までの途中、涸沢小屋で一緒だったべらんめぇおじさんを見かけたので少し話をしてみると、なんと彼らは穂高岳山荘からの下山中にザイテングラートで滑落事故を目撃したとのことであった。『ドン!ドン!』と二回大きな音がしたとのことであるが、滑落者は幸いにも足の骨折だけで済んだそうである。恐るべしザイテングラート…
ここからは林道歩きが主になるが、ついに雨が降り出す。しかしよくぞここまで天気が持ってくれたものだ。身体中のあらゆる部位から悪臭を放っていた訳であるから、一刻も早く風呂に入りたいと願い自然と早足となる。
12:03PM 上高地
着きました。
上高地は人だらけ。
上高地アルペンホテルの風呂に入る。ああ気持ちいい。
激しくさっぱりした後は河童食堂で定食を食べ、15:00PM発のさわやか信州号で再び新宿へ戻り、初のアルプス遠征、夢の槍・穂高縦走を無事に終えたのであった。
今回の山行、一言で言えば『最高』でした。いま槍の登頂や大キレットの攻略を思い返してみても、じんとくるものがある。
これは止められんなぁハマってんなぁと思った北アルプス登山でありました。
その後
歌舞伎町のビジネスホテルに一泊。
ゴキブリが道を這っていたり、コンビニ前にバイクを中心に座り込む大勢のヤンキーがいたり、道端に座って眠りこける酔っ払いがいたり…
ああやっぱりあの稜線に立っていた瞬間が最高だったなと再認識させてくれた歌舞伎町、ありがとうございました。
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